あとがきにかえて

「失われた時を求めて」

Love Letter のポイントとなる,プルーストの「失われた時を求めて」.
少年樹が別れ際,少女樹に預けたのが「第7篇,見出された時」.

このとき,はたしてイラストが描かれた「図書カード」はブックポケットに入ったままだったのだろうか?

もし正規に借り出したのなら図書カードは本来図書室にあるはずだ.そう考えても良い理由がある.図書カードにある貸出日,返却予定日,返却日の筆跡がほぼ同じことに注目して欲しい.返却日を記入したのが少女樹ならば貸出手続きを行ったのも彼女自身ということになる.しかしそうなら,少年樹は図書カードの裏にいつ彼女のスケッチを描いたのだろう?

貸出前にスケッチを描いてから借り出したのだろうか? それなら手続きをした彼女がそれに気づかなかったというのは不自然ではないのか?もし気づかなかったとしても返却時に気づいたのではないのか?

しかし,むしろ私はこう考えたい.やはり「図書カード」はブックポケットに入ったまま少年の手から少女の手に渡ったのだと.

年明けに転校しなければならないことを知った少年は冬休みが始まる前に「図書カード」を偽造することを思いつく.図書室から新しいカードを手に入れて裏にスケッチを描き,表には著者名,書名,所属,帯出者氏名,貸出日,返却予定日,そして返却日まで書き入れて(実際「藤井樹」の文字は「ストレートフラッシュ」や「答案用紙」の時のものと同じである.)請求記号と登録番号を記入するときになって彼は困った.「え〜い,思いついた数字でいいや!」だから請求記号はまったくデタラメなものになってしまった.こうして「偽造カード」は完成し12月21日,彼は図書委員の特権を利用して正規の手続きを経ることなく,狙っていた本を不正に持ち出して図書カードを入れ替えたのだ.なぜなら,1年前,図書委員に選ばれたその日に彼女が作ったのが,このカードだったからだ.

そして1月15日,彼女の作ったカードは彼の元へ,彼の作ったカードは彼女の元へ渡ったことになる.しかし真相を知っているのは彼だけで請求記号が違っていることにさえ彼女は気づかない.

だが,別に気づいて欲しかったわけではない.彼にとって自分の気持ちが伝わったかどうかは重要ではないのだ.自分なりのやり方で密やかに気持ちを伝えたという事実こそが彼のプライドのすべてだから.それが彼の誇らしい青春の記憶なのだから.

しかし思いがけない奇跡が起こり彼の気持ちは時を越えて死をも乗り越えて彼女に伝わった..こうして彼の人生の目的は見事に成就したことになる.

『人生は,はかないものを永遠のものにするためにある.』

そして,私は,こうして「あなた」 に出会うことがこのページを作った目的だったと,そう思うことにします.見てくれて有り難う,感謝します.

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